銃の取得 |
「銃」を所持しようと思った。
勿論、本物の「銃」だ。
当時、私の会社に出入りしていた
カメラマンのM氏が、
射撃目的で銃を所持していて、
ある時、本物の銃を見せてもらったことがあった。
銃といっても色々あるが、
あくまでも射撃用なので
例えば猟銃のようなものとも少し違う。
そう、オリンピックの競技などで使用するものだ。
まあ、一口にそうはいっても
素人には、なかなか区別などつかないが。
そのM氏の話しを聞いているうちに
小さな的や、
空中に放たれる円盤を撃ち抜く
クレー射撃といった
ちょっと一般では馴染みの薄い趣味を持つのも
面白いンじゃないか
などと思い始めた。
M氏も、
私が銃を持てば
射撃場に連れて行って教えてやろう、
とまで言ってくれた。
私は、ごくごく軽い気持ちで
「それじゃあ、免許を取ります!」と
M氏に伝え、翌日、地元の警察に出かけた。
その頃、
まだ私は川越の住民だったので、
川越警察署の生活安全課という部署を訪ねた。
いまは川越警察署も移転したので
現住所は知らないが
かつては、川越駅西口を出て
現ゆきさだ病院の近くだったと思う。
いきなり銃を所持したいと話した私に
一見ドラマに登場しそうな
眼光鋭い中年の警察官が
「キミが持つの?おもちゃ、持つンと違うよ、
大丈夫?覚悟あるの?」と
まるで、止めた方がいいよ、
と言わんばかりの口調で畳みかけてきた。
私も若かったので、
そう言われれば、余計引き下がらず、
「そのつもりで来てますから!」と
突っぱねるように答えた。
とりあえず、必要な書類を受け取り
初心者講習の日取りを確認して帰宅した。
いま現在は
どのようなシステムになっているのか
わからないが、
その当時は
まず自分の住む地域を管轄する
警察署の生活安全課に出向き、
必要書類を受け取って、
「初心者講習会」を受講。
その場で、講習後にすぐさま
筆記試験が行われ、
合格者には、「講習修了証明書」が発行される。
この証明書があれば、
晴れて堂々と
銃砲店で銃を購入することができるのだ。
「初心者講習会」は、大宮で行われた。
平日だったので、私は有休をとって
朝からウキウキと出かけていった。
その場で初めて
『猟銃等取扱読本』なる
教習用の教科書をうけとり、
すぐに講習会は始った。
事前準備もなにもなく、
いきなり法令やら、銃の知識やら
挙げ句は銃の解体まで行い、
こと細かく銃についての講義が続いた。
むかし、
市川雷蔵という役者が出演した
『陸軍中野学校』という映画を思い出していた。
陸軍中野学校とは、
ご存じの方も多いと思うが
第二次世界大戦の折りに
日本で初めて発足された、
機密任務を遂行するための・・・
いわばスパイの学校である。
そういえば、
今年亡くなった
生き残りの日本兵として有名な
小野田寛郎さんも、中野学校の出身ではなかったか。
まあ、それはさて置き、
午後になると、
いきなり試験となった。
幸い、学業での試験は苦手だが、
自動車教習所と当講習の試験は
一発で合格した。
ところが、いざ合格してみると
妙なもので
銃を所持するということの重みが
朝までの明るい気分とはまるで違ってしまった。
ひとつには、
講習でさんざ銃を所持することへの心構えから
実際にどうのように所持しなければならないか
といった厳しい規制などを知ったこと。
さらに、
銃を持つということは
自分の住む家の環境も厳しく規制され、
近隣の住民に対しても
必要以上に気を配ることも義務づけられる。
それは、一緒に暮らす
親兄弟に対してもそういうことになる。
「講習修了証明書」は3年間有効なので
じっくり考えてからでも遅くないと思い、
まずはM氏に相談することにした。
M氏は、私より一回り以上先輩であり、
当然のことながら
私のように浮足立った人間ではない。
それから、いろいろなことを含め
何回か相談させて頂いた。
長くなるので、結論だけいうと
私は「講習修了証明書」の期限である
3年を待たずに、一切を放棄した。
従って、今も本物の銃など所持していない。
私の好きなジャーナリストで作家の
ピート・ハミルが書いた
『アメリカ・ライフル協会を撃て』などを
その後読むにつけ
あの時の私の選択は
私自身にとって正しかったと思えた。
そう、銃を所持するひとを非難するつもりも
擁護するつもりもない。
ただし、問題は
それをどのように使用し、
どのように所持するかということだ。
少なくとも
私のようないい加減で
甘い生き方をしている者は間違っても
所持するべきものではないということだ。
だから、
戦時下のように、
誰かれ構わず銃を所持させるとは
狂気の沙汰としか言いようがない!
ま、これは、また別の話だが・・・。
本日も、ご来店、ありがとうございました。
店主に代わりまして、お礼申し上げます。
明日、世界中で一発の銃声も鳴りませんように。
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