想い出の喫茶店2~バンコク |
もうだいぶ前の話だが、
仕事でバンコクに行ったときのことだ。
滞在するホテルに着き
まずほっとしたのが、ホテル内に
「スターバックス」があったことだ。
これで、とりあえず珈琲を飲むこと(店)に
悩むことはない。
海外へ仕事で行くと
最近は有難いことに
だいたい「スタバ」があるので
あちこち珈琲店を探し廻らずに済む。
それはさて置き、
最終日の仕事が予定より早く終わったので
のんびりと午後の時間は
周辺をぶらぶらしようということになった。
もっとも観光地で仕事をしているワケではなく
だいたいが中心街からは離れた場所にいる。
なので、なにがあるというワケではない。
行きあたりばったりで歩いたせいか
どこか喫茶店にでも入って休もう、
ということになり、店を探しはじめた。
ところが、それらしい店などない。
ほとんどの店が
カタチばかりの厨房の場所と
売り物の商品棚が置かれた
わずかなスペースの上には
粗末ながら屋根があるものの
店内(と呼べるか?)は
そのほとんどが外である。
よく言えば、“オープンカフェ”か(笑)、
昔風のビヤガーデンではないが
パラソルが中央に刺さった
スチール製の丸テーブルと、それを囲む
壊れかけたスチール製の椅子がある程度だ。
いずれにしても
少し休もう、とその丸テーブルを囲み
現地スタッフを含めた5人ほどのメンバーは
座り込んだ。
熱い珈琲を冷えた店内で・・・
などと思っていた私たちは
まずそれを諦めることから始めた。
季節は夏、そうでなくても暑い国にいる。
しかも、屋外ときている。
次に諦めたのはアイス珈琲というオーダーだ。
現地スタッフの話で
まず生水、氷の類は避けた方がいい、という。
(※これは、あくまでも当時の話だ)
一番安全なのは、
瓶に入ったジュース類かビールだ、と。
さすがに、まだ日も高いということで
各自が瓶の飲料水をオーダーした。
私は、確かコカコーラを注文したと思う。
そして、談笑をし始めてまもなく
あっという間に辺りが暗くなったかと思ったら
嵐のような突風が吹きこみ
洪水のような雨が落ちてきた。
雷雨というのか、スコールという感じか。
私たちは、とりあえず
気持ち程度の屋根がある場所へ急いで退避した。
風にあおられてパラソルが
とうとうテーブルから抜け
目の前まで飛んできた。
いくつか置かれたテーブルも椅子も
風に舞って倒れ、
激しい雨でずぶぬれになっている。
かくいう我々も、
実は退避したものの、さほど遮るものがないので
結局は風にあおられ、吹きこんできた雨に
全員ずぶぬれになっていた。
ほとんど、屋外にいる状態と変わらない。
しかし、時間にして2~30分のことだったろうか、
まるで魔術にでもかかったように
瞬時に荒れた天候が、またしても瞬時にしてピタッと
収まった。
私たちは、ホッと溜息をつき、
互いの姿に笑うに笑えず、言葉を失っていた。
ところが、である。
なんと店に居たオーナーと従業員なのか、
3人ほどの連中は、
そんな我々を見て、なにか言いながら
高笑いをしていた。
そして、目の前に広がるめちゃくちゃになった
店内(?)を、まるでなにごともなかったように
もとのカタチへ直しはじめたのだ。
現地スタッフの話では、
こんなことは日常茶飯事のことだから
特にいちいち気にしない、という。
なるほど、と頷いてはみたが、
日本では、こうはいかない。
そんな説明を聞いて、
なんとなく我々も、笑いはじめ、
ぬるくなり、炭酸も抜けたコーラを飲みほして
その店を後にした。
帰国後、その仲間たちと集まり、
バンコクの話になると
決まってそのときの話が一番盛り上がる。
あの日の夕刻、
我々は、やっとホテルの「スタバ」で
いつもの珈琲を噛みしめるように
味わい、
「ああ、これこれ!」などと
語りあったのに
誰もがその話については
未だ一度も触れることがない。
本日も、ご来店、ありがとうございました。
店主に代わりまして、お礼申し上げます。
明日も、「大正館」は、変わらぬ味で
あなたの想い出を彩ります。
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