想い出の喫茶店3~新潟 |
初めて新潟県村上市に行ったときのこと。
だから、二十年近くは経っているか。
いつも古い話で申し訳ないが、
その夏、私用で車を走らせ、
新潟に入った。
当時、高速道路からバイパスで
新潟市内を抜け村上方面に向かった。
用事を済ませ、
午後から夜まで時間潰しに
海沿いを山形方面へ走ってみることにした。
ひとから、
天気がいいので、
日本海に沈む夕日がきれいですよ、
と教えてもらった。
そう、日本海側は
海に沈む夕日を見ることができるのだ。
ほんとうに海沿いに道が続き、
行けばいくほど海もきれいで
景色も美しい。
ほどほどのところで車を止め
太陽が沈むまでどこか喫茶店にでも
入って待とう、と考えた。
しかし、なかなか思うような店は現れない。
しばらく走ると道路沿いに1軒だけ
それらしい店があった。
入ってみると、客はひとりも居ない。
客が来るのは珍しい、というような顔で
その店の店主は素っ気なく
「いらっしゃい」と小声でいうと
水を運んできた。
アイスコーヒーを注文し、
座る場所を探すと
海沿いに設置された窓側の席があった。
迷わずそこに座って外を眺めると、
すかさず店主は
「そこはダメだ」という。
私は一瞬、耳を疑った。
そして、客がどこに座ろうと、
どうせ空いているならいいだろう、
と、少し訝しげな顔を店主に向けた。
すると店主が
「夕日がきれいに見える場所は
店の外がいい」という。
店から出て行けというのか?と
ますます不思議そうな顔をすると
店主は厨房奥の扉を開け、
「ここから店の脇にあるベランダに出られる
椅子があるから
そこに座ればいい」と言った。
私は促されるまま
外にでたら、
いきなり目の前に日本海が広がっていた。
しかも、視界を遮るものひとつなく。
どうやら、ここは店ではなく
店主の住む母屋へ通じるベランダのようだった。
見るからによそ者の風体をした私が
窓から海ばかり眺めていては
いかにも夕日を見に来ました、と
いわんばかりだ。
それを見計らった店主が
とっておきの場所を提供してくれたのだ。
その日の夕日は実にすばらしく
映画のシーンのように美しかった。
そして、その店には
滞在していた1時間ちょっとの間
私以外にひとりも客が入らなかった。
余計なお世話だが、
これで生計が成り立つのか?
それとも、道楽で開けているのか?
それよりなにより
いまも、その、店はあるのだろうか。
あの素っ気ない店主は元気だろうか。
本日も、ご来店、ありがとうございました。
店主に代わりまして、お礼申し上げます。
明日は土曜日、一週間のなんと早いことか・・・
もっとも、「大正館」は時間を忘れさせてくれますが。
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