秋刀魚の味 |
「秋の味覚」といえば、サンマ。
という話では、ない。
日本が誇る映画監督のおひとり
小津安二郎監督の遺作として
1962(昭和37)年に公開された
松竹作品『秋刀魚(さんま)の味』だ。
かなり前に、
ある知人がそれ(DVD)を観たいというので、
長いこと貸していたら、
先日、
僕の腰痛の見舞いがてらに返しにきてくれた。
そういえば、僕自身
しばらく観ていないなぁ、と
昨夜、特に理由もなく観たのだ。
小津映画が好きだということは
ここでも再三書いてきたので
今更ながらではあるけれど
どうも僕の肌に合うというのか、
気持がささくれだってくると
その特効薬として、というか、
観終わった後、
妙に穏やかになるということもあって
“忘れた頃に小津映画”と
称して、周期的に観ている。
この作品は先述したとおり
小津作品としては遺作となってしまった。
主な出演陣をみても
原節子さんは登場しないまでも
小津作品の常連さんたちが大勢出演している。
ざっと挙げても
笠智衆さん、岩下志麻さん、
佐田啓二さん、岡田茉莉子さん・・・。
改めて観て思ったのだけれど、
佐田啓二さんの格好というか、仕草や
瞬間的に見せる表情などは
さすがに中井貴一さんに似ているのには
驚いた・・・否、中井貴一さんが似ているのか(笑)。
それに、岡田茉莉子さんの
なんともチャーミングな、
いかにも(昭和30年代の)現代女性として
魅力的に描かれている。
作品の舞台となっている時代は
まさに高度成長期まっただなかの
昭和30年代後半で、
当時の日本の様子も随所に観られるのが
物語の内容以外にも楽しめる点だ。
佐田・岡田の若い夫婦は、
憧れの団地に居を構えている。
その頃、「三種の神器(テレビ・洗濯機・冷蔵庫)」
といわれた電化製品のうちの
冷蔵庫が欲しい、と
佐田は父親である笠にお金を借りに行く。
そらには、自分の趣味である
ゴルフの道具も買い替えたいと
余分にお金を借り、
それが妻の岡田にバレて、
もめたりするあたりは
なんら今のテレビドラマの
シチュエーションと変わりないのがおかしい。
余談だけれど、
ゴルフ道具のブランドが
「マクレガー」というのにも驚いた。
ゴルフをおやりになっている方なら
当然ご存知の名ブランドだが、
まさかこの当時から憧れの的であり
やはり誰もが欲しがったのか、と。
まあ、物語の骨子はさておき、
今回久しぶりに観て、
忘れていたシーン(会話)があった。
それは、主役的な存在である
笠が演じた平山という初老の男が
あることで、戦争中に
自分の部下であった男・坂本(加東大介)と偶然再会し
その男の馴染みのバー(ママ役は岸田今日子)で
「戦争になぜ敗けたのか・・・」、
「お陰で苦労した・・・」、
「もし勝っていたら・・・」
などというような会話を交わすシーンがある。
その流れで、
次のような会話をする。
平山(笠)「けど敗けてよかったじゃないか」
坂本(加東)「そうですかね。・・・うーむ、
そうかもしれねえな、
バカ野郎が威張らなくなっただけでも・・・(以下略)」
自ら戦地へも赴いた経験のある
小津さんらしいセリフのやり取りではなかったろうか。
またしても余談ではあるけれど・・・
1959(昭和34)年に
東京でのオリンピック開催が
決定されていたので
撮影期間の間は
「東京オリンピック」の準備に湧き
どんどん日本や東京が発展(?)していく
忙しない時代と重なっていたはずだ。
どんな思いで、そういった
新しい日本の姿を見つめていたのだろう。
映画公開の翌年、
1963(昭和38)年12月12日、
奇しくも60回目の誕生日を迎えたその日
小津監督は永眠した。
その、さらに翌年1964年に
オリンピックは東京で華々しく開催された。
当たり前のことだけど、
小津作品は、
オリンピック以降の
日本(日本人)や東京を描いた作品などない。
それを小津作品として観たかった気もするが
描かなかったことで
それ以前の日本(日本人)が
鮮やかにフィルムに焼きついているようにも思う。
さて、次にまた小津作品を観るのは
いつになるやら。
本日も、ご来店、ありがとうございました。
店主に代わりまして、お礼申し上げます。
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