『時代屋の女房』の安さん、逝く |
俳優の渡瀬恒彦さんが今月14日、
多臓器不全のため東京都内の病院で死去した。
特別な思いは薄いが、
テレビなどで彼を見ていて
いつも思い出す映画が1本ある。
1983年(松竹作品)公開の
森崎東監督『時代屋の女房』だ。
この映画には、僕の好きな女優
夏目雅子さんと渡瀬恒彦さんが出演していた。
原作は、作家村松友視氏の同名小説で、
1982年の第87回直木賞を受賞した作品だ。
物語は、骨董屋を経営する中年男・安さんと、
その店にある日どこからともなく転がり込んできた
若い女性を中心にさまざまな出来事が起こるというもの。
派手さはないが、どこかに昭和の
つつましくも面白おかしく暮らす
市井の人々が描写されていて魅力的な作品だ。
その安さんを渡瀬恒彦さんが演じ、
若い女性(真弓さん)を夏目さんが演じている。
このスクリーンに登場した安さん(渡瀬)が
僕のなかでは渡瀬さんそのもののように思えて、
そのイメージが頭から離れないでいる。
そのせいか、テレビなどで刑事役などを演じる
渡瀬さんは、どこか違和感があり、
好んで観ることはなかった。
その後に古谷一行さんが同作品の安さんを演じ、
女優の名取裕子さんが真弓を演じた映画も観たが、
(特にお二人共に嫌いではないものの)
どうにも物語に入り込めなかった。
やはり、僕のなかでは
安さんは渡瀬さんなのだ。
もちろん、ご本人のことは知らないし、
お会いしたことさえない。
それでも、一見タフで頼りがいがありそうに見え、
その実どこかなんとも頼りなく、
時代の流れに乗れず、ひょうひょうと生き、
無口だがこころが広く、やさしい性格で
それゆえ誰からも好まれる“昭和の男”・・・
そんな役が似合う俳優さんだった(ように思う)。
とうとう『時代屋の女房』も
真弓さん(夏目雅子さん)に続き、
安さん(渡瀬恒彦さん)も旅たってしまい、
ほんとうにスクリーンの中だけでしか
お二人に会うことはできなくなった。
久しぶりに、今夜はじっくり観返してみよう。
さて、珈琲一杯にどんな価値を見いだすかは
あなた次第ですが、
どうぞ、今日も素敵な一杯を!
――本日のブログ担当は、アブサンさんでした。
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