四月馬鹿 |
今日は、
どこの店に入っても、
殺気立つ気配もなく、静かだ。
値札に8%の消費税が加算されているか、
いなかの違いなのに。
そう、昨日までの喧騒が「嘘」のようだ。
こんなことは、できれば
「嘘」であって欲しいと願うのは
誰しも同じだろう。
奇しくも、今日、4月1日は「四月馬鹿」。
英語での方に馴染みがあるなら、
“April Fools' Day”だ。
「嘘」にもいろいろあろう。
でも、いっそ「嘘」をつかれても
笑えるものや嬉しいものがいい。
しかし、そういう「嘘」をつくのは難しい。
よほど知恵を絞り、
あれこれ結果まで予想し、
誰をも傷つけず、
十分に納得できるものでなければならない。
むしろ
軽はずみな「嘘」や
ひとを貶めるような「嘘」をつく方が容易いのだ。
自分のことを省みても
後者の「嘘」は随分ついてきたが、
前者のような「嘘」をつけるだけの
知恵も自信もない。
今日という日に関係はないが、
「嘘」で思い出した。
1940年以降、
オーソン・ウェルズ(George Orson Welles)という
映画監督、脚本家、俳優として活躍した
人物をご存じだろうか。
代表作品である『市民ケーン』や
『第三の男』といえばおわかり頂けるはず。
彼がまだ無名時代のことだが、
これも有名な話しなので、
「あ、それか!」と言われればそれまでだが(苦笑)。
1930年代後半、
アメリカは大恐慌で職を失うひとが溢れ、
ヨーロッパではヒットラーが台頭してきた
いわば暗い時代だった。
そんな1938年10月30日の
夜8時50分、
突然ラジオから臨時ニュースが流れた。
「プリンストンから緊急ニュースです!
ただいまニュージャージー州に、
隕石と思われる巨大な炎に包まれた物体が
トレントンから20マイルの
グローバーズ・ミル付近の農場に落下しました」と。
その後も、延々緊迫する現場のレポートが続いた。
それを聴いたラジオの前の人々は
一時パニックを起こして大騒ぎになった。
これが、いわゆる
オーソン・ウェルズの
「火星人襲来事件」だ。
当時、彼はアメリカCBSラジオで、
毎週、小説や演劇を
斬新な形で短編ドラマ化した番組を製作していた。
その日、題材に選んだのは
H.G.ウェルズの小説『宇宙戦争』。
これを、現代アメリカに舞台を置き変え
「臨時ニュース」風に始め、
迫真の演技で放送を行ったのだ。
この事件で
彼は全米に名を知られるようになり、
その後の活躍に繋がる。
これは「嘘」という範疇に
入るのかどうかはわからないが、
ここまで壮大な「嘘」なら
真相を聞いて腹を立てるより
拍手ものかもしれない。
余談だが、
ウディ・アレン監督・脚本による
1987年の映画『ラジオ・デイズ』に
その場面が登場する。
この作品は、ウディ自身を思い起こさせる
一人の少年の目を通して映し出される
古きアメリカの懐かしい日々を綴った物語だ。
彼女とドライブに出かけた先で
ラジオを点けると
突然その臨時ニュースが流れ、
慌てふためいて
彼女を放って車から逃げ出すという
そんなシチュエーションだった。
映画のなかに挟みこまれている、
ちょっとした隠し玉のような
エピソードに気づいたとき、
「ああ、映画っていいなぁ~」と
思わせてくれる瞬間がある。
これが、まさにそうだった。
個人的なことだが、
ウディ・アレンは監督としても
俳優としても好きなので
また別の機会に存分に語らせて頂くとする。
余談ついでだが、
日本でも大林宣彦監督、ジェームス三木原作で
高橋幸宏主演のラブ・コメディ
『四月の魚』(1986年公開 )というのがあった。
題名は、エイプリル・フールのフランス語の
「プワソン・ダヴリル(Poisson d'avril)=四月の魚」
からきている。
映画自体は、実はあまり記憶がない。
ただ、当時、高橋幸宏が好きだったので
アルバム(レコード)を買ったことから
一度だけレンタルビデオで観た程度だ。
そうそう、「嘘」としては
「虚偽報道」という
とんでもないものもある。
これは多くのひとを傷つける、
最低の「嘘」だ。
これについて書き出すと
多分もっと駄文が長くなるので、
またこれも、別の機会に譲ろう。
本日も、ご来店、ありがとうございました。
店主に代わりまして、お礼申し上げます。
明日も店主は「嘘」偽りなく、
真面目に珈琲を淹れますので、どうぞ当店へ。
▼オーソン・W『第三の男』の、このメロディは有名。