松本清張と昭和三十年代 |
藤井淑禎著
『清張ミステリーと昭和三十年代』 (1999年・文春新書)
という一冊があった。
どんな理由だったか忘れたが、
購入した際に読む機会を逸してしまい、
気づいたら本棚の奥にしまい込んでいた。
昨年夏頃か、ふいにそれを見つけて
何気なく繰っているうちに、
本書に感化されたせいか
時々松本清張の本を引っ張り出して
再読し始めた。
松本清張といえば、もう何十年も前の話だが、
ある時期、
彼の小説作品がテレビや映画で映像化され、
そのたびに話題になったらしい。
“らしい”というのは、
その当時、僕自身は子どもだったので、
そうしたものを自らの意思で観た記憶がないのだ。
つまり、上記した新書のタイトルにあるように、
彼の作品が人気となり、
流行作家として地位を築きはじめ、
いわゆる清張ブームが起こるのは
僕が生まれた昭和三十年代から
四十年代のことだ。
初めて僕が清張作品を読んだのは高校生の頃。
そのきっかけは、
野村芳太郎監督作品で、
加藤剛、島田陽子、丹波哲郎、森田健作など
豪華な俳優らが出演した1974(昭和49)年公開の
『砂の器』を観たことだ。
それまでは、正直松本清張といわれても
どうもひとつ、ふたつ上の世代のモノという印象が強く
何となく敬遠していたのだが、
映画が面白かったせいか、原作はどうなんだろう?という
単純な興味から原作本を手にとったのだ。
ところが、原作は映像とはまた違う趣きがあり、
結局単純な僕は、いきなり清張の世界に惹き込まれたのだ。
当時は高校生だったので
本はそうそう購入できず、その大半を図書館で借りた。
いま手元に在る本は、
実はその後、古本屋などで見つけると、
面白かったものだけ再読用に購入したものだ。
ただ、時代や自分自身の成長に併せて
少しずつ彼の作品からも遠ざかってしまい、
いつしか読むことさえ忘れてしまった。
それが、
『清張ミステリーと昭和三十年代』を読んだことで、
自分が生まれ育った、
そう、リアルタイムで体験した
あの時代の暮らしの空気感というか、
匂い、風景、社会の在り方などに
改めて触れたいという妙な思いから、
何十年振りかで再び清張作品を読み始めたのだ。
(そうそう、断っておくが、
それは『清張ミステリーと昭和三十年代』の
内容の善し悪しとは関係ない。)
再読し始めた小説の時代背景は
昭和三十年~四十年代が中心のものが多い。
物語をカタチづくる社会情勢から、
描かれている
暮らしのこまごまとした物事まで
いまは懐かしいと感じたり、
当時はこんなだったなぁ~と感慨深くなる。
それだけに高校生当時に読んだ清張とは
なにかまた違った世界が広がって見えて
新鮮な読後感が得られるのは面白い。
シマノコーヒー大正館で飲む珈琲は
“大正”という時代を容易に夢想できるが、
たまには店内の奥で
清張小説でも読みながら
ほんのちょっとだけ昔の、
“昭和三十年代”を夢想するのも一向かと。
さて、珈琲一杯にどんな価値を見いだすかは
あなた次第ですが、
どうぞ、今日も素敵な一杯を!
――本日のブログ担当は、昭和世代さんでした。
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